響き合う物語

8月22日の毎日新聞夕刊の一面トップに、上のような記事が出ていました。掲載されている写真が、11月13日にJBSGが主催して行う映画会「PAPER LANTERNS」のポスターで使っている写真とほぼ同じものだったので、見た瞬間、ドキッとしました。あらら、どこかで「PAPER LANTERNS」の映画会?と一瞬思ったのですが、記事を読んでみると、ちょっと違っていました。

「風が吹くとき」などの監督としてよく知られている日系アメリカ人のジミー・ムラカミ監督は、最後はヒロシマを舞台にした作品を作りたいと、7年前に森重昭さん、写真のオバマ大統領が抱擁している人、を訪ね、広島で被爆したアメリカ兵捕虜のことをいろいろと聞き、映画の構想を練っていました。

風が吹くとき」は、イギリスのレイモンド・ブリッグズの絵本をもとにムラカミ監督が製作したアニメ映画で、1986年に製作され、1987年に日本で公開されました。見た人もいると思いますが、中年の夫婦が原爆投下後も防空壕として作った扉の後ろに逃げ込んだおかげで生き残るのですが、次第に原爆症に侵されて衰弱して死んでいくのを淡々と描いた、それだけに恐怖を感じる映画です。
(「風が吹くとき」デジタルリマスター版:アットエンタテイメント)

自らも被爆者である森さんと、日系二世としてアメリカで強制収容所に送られ、後にアイルランドに渡って「風が吹くとき」を監督したムラカミ監督の、原爆、放射能、戦争に対する共通した気持ちが共鳴した結果なのでしょう。ムラカミ監督は、森さんの仕事に一貫している人間愛を、アニメとして描きたかったのだと思います。

残念ながら、ムラカミ監督は2014年に80歳で鬼籍に入りましたが、その遺志を継いで、日本のプロデューサーが製作することになり、8月27日に広島市役所で記者会見が行われました。記者会見には、プロデューサーの宇田川東樹さん、脚本の冨川元文さん、キャラクターデザインのかわぐちかいじさん、それと森重昭さんが出席しました。被曝75年に当たる2020年の完成を目指しています。製作のためのキックオフ費用をクラウドファンディングで集めるということです。そのページがここにあります(映画製作の経緯、今後のスケジュールなどが詳しく書かれています)。
(画:かわぐちかいじ)

その森重昭さんが半生をかけて行った広島で被爆したアメリカ兵捕虜の調査と、その結果生まれたアメリカの遺族との交流を描いたキュメンタリー映画が「PAPER LANTERNS」です。11月13日の上映が待ち遠しいですよね。どうぞ、お誘い合わせの上、ご参加ください。申し込み込の締め切りは10月31日です。
今回の映画会のもう一つの目玉は、映画上映後に製作者のピーター・グリーリー氏と参加者とのフリートークの時間を設けていることです。森さんの活動の何が、アメリカ人映画監督達の製作意欲を掻き立てたのか、そんなことを知りたくなりますね。

ピーター・グリーリさんの略歴:
1942年米国生まれ。47年に来日、59年まで日本で過ごす。早稲田大で学び、ハーバード大で学士号と修士号を取得。ニューヨーク日本協会や米のテレビ局勤務、コロンビア大ドナルド・キーン日本文化センター所長、日米相互理解と交流を目指す民間非営利団体のボストン日本協会理事長などを経て、現職ボストン日本協会特別顧問。京都国際観光大使。米ボストン市在住。
ドキュメンタリー映画の脚本執筆や製作をおこない、最新作が「PAPER LANTERNS」。ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの多数の国際的な雑誌や新聞に寄稿するとともに、日本の古典ならびに現代文化イベント製作者として、歌舞伎、能、文楽および多くの映画、ミュージカル、演劇を米国に紹介している。日本語は堪能。